梅雨に入ると、食中毒のシーズンである。
数年前のO−157事件の大惨事は、まだ記憶に新しい。
食中毒の予防と言えば、
・痛んだ食べ物を控える
・熱を加えて食べる
・手洗い
が、あげられる。
しかし、出された食べ物の中に食中毒の原因菌が入っていたら、予防できない。
面白い話がある。
O−157の事件当時、ある医者から「食中毒の予防はよく噛むことです。歯科医師会が〜噛む事の大切さ〜について、以前からキャンペーンされておられるので、この地域は大丈夫です」との話を聞いた。
噛むことと食中毒の予防は、関係あるというのである。
さて、どのように関係するのだろうか?
昭和21年、敗戦後の中国での話。
当時、上海から故国日本へ帰るための船が出ていた。
中国全土から兵隊たちは、飢えと戦いながらも上海にたどり着いた。しかし、そこには、兵隊を収容する建物もなく、屋外でテント生活を余儀なくされていた。
おまけに衛生状態も悪く、便所は穴を掘って板で囲っただけのもの。
水道は、揚子江の水をそのまま吸い上げた消毒不完全なものであった。
伝染病を媒介するハエや蚊、ノミ、シラミの類も年中いる。
しかも、上海は、コレラの多発地帯であったという。
食料不足で抵抗力のない生活において、ひとたびコレラが発生すれば、二次感染のため、壊滅的な打撃を受けることが予測される。
復員船が止まれば、故国の地を踏めないかもしれない。
ある日、2000人の部隊がたどりついた。
うち一人が死亡したことがわかった。全員の検便をしたところ、コレラの感染者が24人もいた。これでは数日のうちにパニックが起こる。
ただちに緊急会議が開かれた。しかし敗戦直後の時期、物資は困窮し何ら案は浮かばなかった。
そこである軍医が、最後の手段を提案した。それは、単純な内容である。
「食事中は、一切水分を口にしない。」ただそれだけであった。
唯一残されたコレラの予防法は、胃液による殺菌しかないのだ。誰もが、故国に帰りたい一心でそれを守った。おかげで、一人の二次感染者も出さなかった{「かかる軍人ありき」伊藤桂一著より引用}。
そもそも食中毒の菌は、食べ物を通じて口から入る。
胃で分泌される胃液は、PH1〜2の強酸だ。コップ1杯のコレラ菌に胃液を1滴落とせば、瞬時に菌は死滅するという。食べ物に付着する菌は、胃では生きておれないのだ。ところが、何かの理由で菌は、小腸に達し増殖して食中毒を起こす。その理由の一つとして考えられること、それは、食事時に水分を多量にとることだ。水分のために胃液が薄まり、充分殺菌されない。
0−157の事件の時、同じものを食べて食中毒を起こした児童と起こさなかった児童がいる。
ひょっとしたら、水分接取と関係あるかもしれない。
先日、小学校で、子どもたちと一緒に給食を食べた。驚くような食べ方をしていた。
パンを細かくちぎって、スープにつけて食べる。牛乳で流し込みながら食べる。先に牛乳を飲む子は、まず噛んで食べていない。
水分の流し込み食べが、現代の食文化の一つとなっている。そのような児童の口の中を診るとムシバも多い。
なるほど、噛めない歯も流し込みの原因となるのだ。
よく噛んで食べること、それは食べ物の表面積を増加させ、胃液に触れやすい環境を作る。
食中毒の予防は、噛むことと深く関係するのだ。
(岡崎好秀 岡山大学歯学部 小児歯科 おもしろ歯学より)
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