よくかめば、脳の働きも活発に
「咀嚼は生きていくための基本。もっとたいせつにしなければ」
こんな記事が12月8日の朝日新聞の医療欄に掲載されました。
「ぼけ防止には、歯を残せ!」
これは、11月25日の毎日新聞の第一面にセンセーショナルに掲げられました。
このように、虫歯、歯槽膿漏=歯医者さんという時代ではなくなりつつあります。
咀嚼が脳機能といかに関わりがあるか、どれくらい重要性なのかががMRI(磁気共鳴画像化装置)の発達で明らかになってきているのです。この二大新聞の記事を掲載してみましょう。
毎日新聞抜粋 高齢者(69〜75歳、195人)の脳をMRIで撮影し、残っている歯やかみあわせの数と、脳組織の容積を調べた結果、歯の少ない人ほど。海馬(アルツハイマーになるとここが萎縮します)付近の容積が減少したり、意思や思考など高次の脳機能に関連する前頭葉などの容積も減っていたとのことです。又、かみあわせ数が少ないと減少が大きかったそうです。かむことで脳は刺激されるが歯がなくなると刺激がなくなり脳の働きに影響を与えるらしいのです。(東北大学大学院渡辺誠、歯学研究科長ら)
朝日新聞抜粋 ものを食べる上で、かむ行為は欠かせません。難しく言えば咀嚼(そしゃく)。単に食べ物をのみ込みやすくするだけでなく、全身の健康ともかかわっているようです。健康的な咀嚼について調べました。
「咀嚼は生きていくための基本。もっと大事にしなければ」。日本咀嚼学会理事長の小林義典・日本歯科大教授はこう話す。
かむ回数が少ないと、どんな弊害が出るのだろう。
咀嚼によって分泌される唾液(だえき)の消化酵素は、栄養を取り込みやすくする。抗菌作用のある成分は、口の中を清潔に保つ。少数回の咀嚼では、唾液が十分に出ないうちにのみこんでしまうので、内臓の負担が増し、虫歯や歯周病が起きやすくなる。
かむ回数が少ない早食いだと、満腹感が得られにくいので、食べ過ぎで肥満につながりやすい。入院して胃に入れた管から栄養を取ると、準備ができないまま食べ物が胃に入るため、下痢や便秘を起こすことがある。
かむ時、口は無意識のうちにかなり精密な動きをしている。右側、左側を交互に使って食べ物を砕き、すりつぶす間に唾液が混ぜ合わされ、舌が食道へと送り込む。あごはやや横にずれながら元の位置に戻る運動を繰り返す。
東京都千代田区の日本歯科大病院で、下の前歯の前部に小さな磁石を付けて下あごの軌跡を追う様子を見せてもらった。正常な人は、毎回きれいに重なる。半月状で、単なる上下運動ではない。斜めの動きが入ることで、食べ物を効率よく砕いているのだという。
こうしたこまやかな働きは周囲の筋肉や神経とも密接にかかわっている。かまなくなると、体の他の部分に影響が表れると指摘されている。 |
神奈川歯科大の小野塚実教授(生理学)らは、かめなくしたマウスは場所を覚える能力が下がることを実験で確認した。
人で、脳の活動状態を調べる機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)を使ってガムをかんだ時の様子を見ると、体からの情報を受け取って指令を出す感覚野(や)と運動野(や)、小脳などが活発に働いていた。
高齢者では、衰えた記憶力を補う前頭前野(や)も活発になった。60〜73歳の13人に2分間ガムをかんでもらって風景の間違い探しテスト(100点満点)をしたところ、かまない時の平均73.8点が80.3点に上がった。
「歯を大事にし、ものを食べられる状態を保つことが一部の痴呆(ちほう)予防に役立つ可能性があります」と小野塚さん。ただし、市販のガムよりも硬いガムではそれほど活発にならなかった。「無理して硬い食べ物ばかり選ぶことはないのでは。それなりに歯ごたえのあるものを最後まできちんとかむといい」
左右偏りなくかむのも大切だ。片側ばかりでかむと片側の筋肉ばかり緊張し、肩こりや頭痛などの変調をきたす恐れが指摘されている。
東京歯科大のグループは、かみ癖の偏りと聴力の関係を調べている。歯科治療後に、聴力が改善した人がいたことがきっかけだった。
ヘッドホンから出る様々な高さの音を聞き、ボタンを押す聴力測定機器で200人以上を調べた。片側でかみ続けると同じ側の聴力が低い。前歯ばかりでかむと高い音が、奥歯ばかりだと低い音が聞こえにくい傾向があった。
グループの一員の長坂斉さんの歯科診療所で私の聴力を測ってもらった。グラフにすると、いずれも正常範囲だが、低い音ほど聴力が低い傾向があった。
「奥歯ばかりでかむ傾向がありませんか。奥歯の虫歯や歯周病に注意したほうがよさそうです。左右のバランスは取れています」と長坂さん。
若い人の変動は自覚できない範囲だが、高齢者では治療とかみ方の指導で、よく聞こえるようになる人もいるという。「本物の難聴が治るわけではないが、かみ癖による疑似難聴の人も少なくないのでは」と石川達也・東京歯科大学長。
虫歯や合わない入れ歯があると、どうしても偏りがちになる。長坂さんは、聴力の変化を治療やかみ癖の指導に使えないか試している。
では、よくかむ習慣をつけるにはどうしたらいいのか。
新潟大歯学部長の山田好秋教授(生理学)は「小さいころから家族で食卓を囲み、楽しく食事しましょう」と唱える。食卓が楽しいと、自然と時間をかけてよくかむようになるからだという。
楽しくかむ習慣を身につけておけば、高齢になっても苦にならずに続けられる。最低限の運動にもなる。「でも、回数にこだわり過ぎて嫌になるのでは逆効果。無理のない範囲でしっかりと」と山田さんは話している。 |
健康咀嚼指導士
日本咀嚼学会が02年に独自に作った。地域での保健活動や診療を通じて最新の正しい知識の普及を図るのが目的。咀嚼と健康について基礎的な研修を受けた栄養士、歯科衛生士、歯科医師らを認定する。認定者は170人ほど。 |
詳しく知るには
歯や口、咀嚼と全身の健康についての全般的な情報は、80歳で20本の歯を残そうと運動している8020推進財団のホームページを。日本チューインガム協会のホームページやロッテのホームページには、ガムと咀嚼の効用についての解説がある。ライオンのホームページの「生活情報」も参考になる。
(2003/12/08)
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