痛くもかゆくもない下顎隆起ですが、 「下顎隆起の人類学」 という論文が発表されました

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下顎隆起:下顎骨の内面にできる骨隆起 多くの場合は両側性 大きさや形は様々 現代の日本人の半数以上にある 若い頃には小型で痛みもなくその存在に気がつかないが、加齢と共に徐々に大きくなる 基本的に日常生活に支障はない

生物としてのヒトの進化(時間的変化)と変異(地理的変異)を研究するのを、人類学というそうです。 その人類学の見地から下顎隆起を調べた論文が日本歯科医師会雑誌に掲載されましたので、要約しました。

歯周病菌は、血液の流れに乗って全身に運ばれていき、臓器や血管壁にたどり着きます。そして、内毒素(エンドトキシン)を遊離させるなどの毒性を発揮し、炎症を引き起こします。中でも心臓や脳、子宮などへ及ぼす影響が詳しく解明されつつあります。 困ったことに、「気道」からも吸い込まれて「肺」にも甚大な影響を与えます。

下顎隆起は、考古遺跡から発掘される人骨や猿人にも見られる。現代人の場合は、北域に頻度が高いという地域差がある。温かい地域でもタイ・ベトナム・日本は出現頻度が高い。

下顎隆起の成因

遺伝因子: グリーンランドに住むエスキモーとノースマン(ヴァイキングの子孫)では出現頻度が違う
環境因子: 遺伝的に同じカナダ東北部のエスキモーの場合、欧米化された食品を食べる人より伝統食を食べる人が下顎隆起を高頻度で有した。食性が関与しているという仮説が提示された

 

日本列島の人々を対象に縄文時代から現代まで、下顎隆起の出現頻度が時代と共にどのように変化したかの 調査の分析
下顎隆起の出現頻度は、弥生時代から近代までは低いが、縄文時代人と現代人において高頻度で現れ、発達した。 そして、隆起はこの100年ほどの現代において突出している

近・現代人について下顎隆起の出現頻度の年齢を調べた結果、下顎隆起は、12歳以降で発現し、年齢とともに 20歳代まで発現頻度は増加する。その後は、年を取れば取るほど下顎隆起は発達する

下顎隆起の位置は現代人では前から4本目に多く見られる。 “親知ず”を有する古代人においては前から5本目に多い。

著者は、下顎隆起の頻度が縄文時代人で高く弥生時人で低いという点に注目する。遺伝的に見ると弥生人は縄文 時代人と渡来人の遺伝子の両方を持った人々である。
したがって、弥生時代に下顎隆起の出現頻度が低下したのは、渡来人が遺伝的に下顎隆起を発現しにくい人々であったと解釈することができる
つまり、下顎隆起の発現に遺伝因子が関与していることが示唆されている
ちなみに、この仮説を検証するために渡来人の故郷と考えられる朝鮮半島や中国大陸の人々を調査する必要が ある。
これは今後の課題一方、弥生時代以降は、日本では遺伝子に関与する大きな変化はなかったにもかかわらず、現代になって下顎 隆起の出現頻度がとても高くなった理由は、遺伝的要因からは説明できない
では、下顎隆起の発現を促すもう一つの原因、環境因子はどうであろうか

これまでの研究から、下顎隆起に影響を及ぼす環境因子としては、下顎骨にかかる負荷が考えられる。

 

     
  下顎骨にかかる負荷  
      ①咬合圧の大きさ: 食物の硬さ 口腔内環境
      ②咬合圧の働く期間: 年齢
     
  口腔内環境としては  
        歯の数  
        歯の位置異常  
        咬耗量  
        顎関節異常  
        歯ぎしりなどの習慣  
     

 

下顎隆起と環境因子の相関
縄文時代:咬耗量が下顎隆起の発達と正に相関
弥生時代:有意な相関を持つ環境因子は無い
鎌倉時代:咬耗量は下顎隆起と相関・歯数が減ると隆起は増えた
近代現代:歯数・咬耗量・年齢が隆起と正に相関

このデータからよめることは
日本人は、噛めば噛むほど、そして噛む力が大きい方が下顎隆起が出現しやすい歯の数が少ないと、噛む力が偏って同じ歯に集中して下顎隆起が大きくなる

注目すべきは、下顎隆起が、現代人に高頻度であらわれることである。
人類学的に、下顎隆起=噛む力=咬合力の増大というデータが示された意味は大きい

硬い食材もとっていないのに、咬合力の負荷が増大しているとは、何なのかもちろん、稀にみる長寿国であることは否めない。
今までになく長い年月にわたり咀嚼活動を続けるのである。
現代人の下顎には、咬合圧は左程でもないが、長い期間にわたり負荷がかかり続けるということなのだ。
また、食事・会話・嚥下などの生活上必要な咬合以外の、TCH(上下歯列接触癖)やブラキシズムによる持続的で 大きな咬合圧も関与しているはずである。
下顎隆起のある人は自らのTCHやブラキシズムを疑っていただきたい。

※上記の文章は、2013年4月号の日本歯科医師会雑誌に掲載された
「下顎隆起の人類学」  著者 五十嵐百合子(日本大学松戸歯学部講師)
を、八木が要約しました。